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東京高等裁判所 昭和53年(う)1891号 判決

本籍

東京都武蔵野市吉祥寺本町一丁目二、一一五番地

住居

同 市吉祥寺本町一丁目二四番六号

会社役員

木村四郎雄

大正八年二月九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五三年七月七日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官河野博出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人中村高一作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官河野博作成名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

本件控訴の趣意は、要するに、原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録及び当審における事実取調の結果に基づき検討してみるのに、本件は、被告人が昭和四九年から昭和五一年までの三年間に各年分の所得税合計五三二九万円余りを逋脱した事実であるところ、右のとおり逋脱税額が高額で、期間も三年間にわたっていること、逋脱税額の実際税額に対する比率もきわめて高率であって軽視することのできない脱税事犯であること、被告人は営業及び経理の実際を妻及び義理の息子らに任せていたとはいうものの、暗に利益を少なく処理するようほのめかし、自らこれに基づき作成された虚偽の確定申告書に目を通したうえ提出することを決めていることなどを考え合せると、被告人が本件発覚後反省して修正申告を行い、本税、重加算税等を納付したほか、旅館等の営業を法人化して経理を明確にする努力をしていること、これまで長年にわたり地元商店街、地域旅館業界等のため尽くしてきたことなど被告人のために酌むべき諸事情を十分に参酌しても、なお原判決の量刑が重きに過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 堀江一夫 裁判官 石田穣一 裁判官 浜井一夫)

昭和五三年(う)第一八九一号

○ 控訴趣意書

被告人 木村四郎雄

右弁護人 中村高一

原判決は次の如き理由により刑の量刑に不当がある。

第一、所得税法違反事件の一般的取扱方針は税務署では五千万円を標準としてそれ以上は国税庁扱とし、それ以下は所轄税務署扱いで税額修正して納税させる慣習になっている。

本件は三年間で五千三百二十九万円で一年間にすれば一千余万でスレスレの金額で検察庁へ廻され起訴されたものである。

旅館、飲食店などは経営も不定で出入の客も種々雑多で未払の客、帳面で延払いの客あり、又常時増改築、修理、模様替えなどもせねばならず、一々減価償却すれば税金から差引く方法もあるが、面倒でつい行わず、本件の如き結果に陥った。

第二、被告人は、旅館、スナック等の経営名義人ではあるが、実際の業務は妻や息子に委せてあって殆んどタッチしていないと言っても過言ではない。帳簿なども見たこともない。

毎日旅館組合、環境衛生組合、町内会などの責任者として馳け廻り家にも余りいないのが実情である。

併し、名義人として経営について責任のあることは認め、国税庁の取調べを受けた際も隠すところなく、全部の帳簿類、日記、手控、伝票から妻のメモ類まで提出して協力した。

取調べ官に対し妻や息子に「世間並にやれ」とか「常識の線でやれ」と言ったことを供述しているが脱税しろとの意味では毛頭ない。

従来も開業以来今日迄税務署の査察を受けたことも一回も無い。

国税庁の査察を受けてから即刻修正申告をして、差額五千三百二十七万八千七〇〇円、重加算税千六百十二万一千七〇〇円、延滞利子参百五十九万九千三十円は納付ずみである。

証拠援用

国税庁金崎義徳取調べ調書

「細かく指示を受けたり、一々報告などしておりません。」

第三、被告人は従来も東京都、三多摩の旅館組合、地元町内会、古物商、不動産組合等の役職を兼ねて度々に亘って表彰されている。

犯人逮捕により

警視総監 感謝状及表彰状 二回

警視庁防犯部長 感謝状 七回

警察署長 表彰状 六回

赤十字 金色有功章

内閣 紺綬褒章

都衛生局長 感謝状 三回

東京都知事 感謝状 二回

武蔵野市長 感謝状 二回

商工会議所会頭 表彰状 二回

証拠援用

原審提出ずみ

なお、現在も次の如き要職にある

三多摩観光旅館組合理事長

東京都環境衛生組合副理事長

全国環境衛生組合副理事長

吉祥寺東口町内会長

昭和五三年一〇月一四日

右弁護人 中村高一

東京高等裁判所第一刑事部 御中

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